洋楽ロック&ポップス名曲1001:2022
Harry Styles, ‘As It Was’
ハリー・スタイルズのアルバム「ハリーズ・スタイル」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで10週、全米シングルチャートで15週にわたって1位を記録したほか、様々な国で大ヒットした。
a-ha「テイク・オン・ミー」などを思い起こさせる80年代シンセポップ的なポップでキャッチーなサウンドにのせて、失恋の痛みとそれを乗り越えて変化していかなければいけないというようなマイルドにほろ苦い気分をも歌っているのだが、これが新型コロナウィルスのパンデミック以降を生きる人々の心情にもフィットしていたような気がする。
リリースされた年の夏には新宿ルミネのエレベーター内でもよく聴くことができたのだが、その後わずか数年にしてすでにモダンクラシック的な風格をまとっているように感じられる。
Beyoncé, ‘Break My Soul’
ビヨンセのアルバム「ルネッサンス」からリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高2位を記録した。
音楽的にはハウスミュージックからの影響が大きく、90年代のヒット曲「ショウ・ミー・ラヴ」がこの曲でサンプリングされていることを息子から聞いて知ったロビン・Sは驚きとともにビヨンセに感謝した。
仕事のストレスやパンデミックの影響によって魂を傷つけられることを拒絶するこの楽曲は、当時のアメリカで社会問題化していた大退職時代のアンセムとしても機能した。
Steve Lacy, ‘Bad Habit’
スティーヴ・レイシーのアルバム「ジェミニ・ライツ」に先がけてリリースされたシングルで、全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高8位を記録した。
ネオソウルグループ、ジ・インターネットへの参加やケンドリック・ラマーやタイラー・ザ・クリエイターらへの楽曲提供で知られていたスティーヴ・レイシーだが、ソロアーティストとしてはこれが最初のヒット曲であった。
サイケデリックでロウファイなサウンドにのせて、内気で自信がなさすぎるために恋愛のチャンスを逃してしまったことについて、後悔し続けているような内容の歌詞が歌われている。
スピードアップされたバージョンなどがTikTokで話題になったことも、ヒットの要因の1つであった。グラミー賞では年間最優秀レコード賞と年間最優秀楽曲賞にノミネートされるものの受賞を逃すが、収録アルバムは最優秀プログレッシブR&Bアルバム賞を受賞した。
NewJeans, ‘Ditto’
NewJeansは2021年にHYBEが設立したADORレーベルからデビューした韓国のガールズグループで、SMエンタテインメントのクリエイティブディレクターとして、SHINee、EXO、f(x)、Red Velvetといった数多くのK-POPグループを手がけてきたミン・ヒジンがプロデュースした新しいグループとして注目をあつめた。
グループ名が世代を超えた老若男女に愛好されるファッションアイテムのジーンズにちなんでもいるように、懐かしさと新しさとを絶妙に取り入れた音楽性やナチュラルでオーガニック気味なイメージなどによって大いに支持され、すでにかなり人気があったK-POPというジャンルの裾野をさらに広げることに成功した。
ともすればコンセプト先行と批評されもしかねないところを、その楽曲のクオリティで凌駕しているところがまたすさまじく、特に「Ra-ta-ta-ta 高鳴る心臓」と淡い恋心について歌われるこの楽曲はフレッシュでありながらエバーグリーンポップとしてのポテンシャルをも秘めているところがとても良い。