洋楽ロック&ポップス名曲1001:2004
Usher feat. Lil Jon & Ludacris, “Yeah!”
アッシャーはアルバム「コンフェッションズ」をほとんど完成させていたのだが、当時のレーベルのボスであったL.A.リードからリードシングルに値する楽曲がまだ不足していると言われ、最もホットな音楽プロデューサーとして知られていたリル・ジョンに楽曲を依頼する。
当時のリル・ジョンは超売れっ子であったため、誰にどの楽曲を渡したかもよく分からなくなっていて、2人のアーティストに間違えて同じ曲を渡していたというようなミステイクもあったりしたのだが、リュダクリスのラップもフィーチャーしてなんとか完成させたのがこの楽曲であった。
まさにクラブアンセムと呼ぶにふさわしいほど流行りまくったこの楽曲の内容は、クラブでとても魅力的な女性に出会い、明らかにモーションをかけられているのだが、よく考えると自分には恋人がいて、いけないことだと頭では分かっているのだが、どうしても「Yeah!」という気分になってしまうというようなものである。
全米シングルチャートで12週連続1位、この年の年間1位にも輝き、第47回グラミー賞では最優秀ラップ・コラボレーション賞を受賞した。
この曲の連続1位を途絶えさせたのが、これもまたアッシャーの「バーン」であり、8週連続1位を記録した。また、6月初週の全米シングルチャートでは「Yeah!」「バーン」の他に「コンフェッションズ・パート2」とアッシャーの楽曲が3曲もトップ10にランクインしていたのだが、これはビートルズ、ビー・ジーズに続いて歴代3組目、ソロアーティストとしては初となる快挙であった。
2024年にはNFLスーパーボウルのハーフタイムショーでパフォーマンスを行ったアッシャーは、圧巻のステージをこの曲で締めくくったのだが、その影響もあり全米シングルチャートの20位に再ランクインしていた。
Franz Ferdinand, “Take Me Out”
フランツ・フェルディナンドの2作目のシングルで、全英シングル・チャートで最高3位のヒットを記録した。約4ヶ月前にリリースされたデビューシングル「ダーツ・オブ・ザ・プレジャー」が最高44位だったので、このシングルで大きくブレイクしたということができる。
この翌月にはこれら2作のシングル曲も収録したデビューアルバム「フランツ・フェルディナンド」をリリースし、全英アルバム・チャートで初登場3位を記録した。当時のUKインディー・ロック界では話題を独占するぐらいの勢いで、一気に注目をあつめた。
アートスクール的なセンスとニューウェイブリバイバル的な音楽性が特徴であり、ユニークなバンド名は第一次世界大戦のきっかけとなったサラエボ事件で暗殺された歴史上の人物に由来する。出身はスコットランドのグラスゴーで、プロデューサーは1990年代にスウェディッシュポップブームを巻き起こしたことでも知られるトーレ・ヨハンソンであった。
この楽曲はバンドのボーカリストでソングライターであるアレックス・カプラノズが見ていた戦争映画「スターリングラード」にインスパイアされていて、敵対する狙撃手同士の攻防をもしかすると恋愛がはじまるかもしれないスリリングなシチュエーションに当てはめている。
4分たらずの楽曲の中でテンポや曲調が変化していく構成もおもしろいのだが、それでいてマニアックになりすぎることなく、あくまでスタイリッシュでモテそうな音楽であるところがポイントである。
Kanye West, “Jesus Walks”
カニエ・ウェストのデビューアルバム「ザ・カレッジ・ドロップアウト」から4作目のシングルとしてカットされ、全米シングルチャートで最高11位を記録した楽曲である。
アルバムタイトルは大学中退という意味だが、実際にカニエ・ウェストはシカゴ州立大学を中退していて、その理由は音楽プロデューサーとしての仕事がひじょうに忙しくなったことであった。
ソロアーティストとしてデビューする時点でヒップホップのリスナーの間ではかなり有名な存在だったのだが、それはジェイ・Zのアルバム「ザ・ブループリント」に収録された何曲かやリュダクリス「スタンド・アップ」、アリシア・キーズ「ユー・ドント・マイ・ネーム」といったプロデュース作品や、プロデュースのみならずフィーチャリングアーティストとしても参加したトゥイスタ「スロー・ジャムズ」がヒットしていたことによる。
この楽曲には薬物中毒更生施設の患者や元患者たちによって構成されるゴスペルクワイア、The ARC Choirの「ウォーク・ウィズ・ミー」という曲をサンプリングしていて、イエス・キリストという世俗的なラジオなどではなかなか扱いにくいとされているテーマをあえて取り上げている点などが高く評価されている。様々なメディアの年間ベストソングリストに選出されたほか、第48回グラミー賞では最優秀ラップ・ソング賞を受賞している。
Modest Mouse, “Float On”
アメリカのロックバンドであるモデスト・マウスの4作目のアルバム「グッド・ニュース・フォー・ピープル・ラヴ・バッド・ニュース」からリードシングルとしてリリースされ、全米モダンロックトラックスチャートで1位、全米シングルチャートでは最高68位を記録した楽曲である。
バンドのボーカリストでソングライターのアイザック・ブロックは2人の親しい友人を亡くしたり、他にも当時は暗くて悪いニュースばかりが続いていたことから、とにかく明るくてハッピーな曲をつくろうと思い、悪いこともいずれは必ず良くなるというようなポジティブなメッセージが込められたこの曲ができあがった。
バンドにとってはメインストリームでも広く知られた初めての楽曲となり、第47回グラミー賞では最優秀ロックソングにノミネートもされるのだが、U2「ヴァーティゴ」に敗れ受賞とはならなかった。
The Streets, “Dry Your Eyes”
ザ・ストリーツはイギリスはバーミンガム出身のラッパー、マルチインストゥルメンタリスト、マイク・スキナーによるソロ・プロジェクトで、2作目のアルバム「ア・グランド・ドント・カム・フォー・フリー」から2作目のシングルとしてカットされたこの楽曲は全英シングル・チャートで初登場1位に輝く大ヒットを記録した。
「ア・グランド・ドント・カム・フォー・フリー」は主人公とスポーツショップに務めるシモーヌという女性の恋愛をストーリー仕立てで描いたコンセプトアルバムとなっていて、この楽曲はアルバムも終盤の10曲目に収録されている。
ほとんどの恋愛がそうであるように、このアルバムにおける主人公とシモーヌの関係も悲しい結末を迎えるわけだが、この楽曲では主人公がシモーヌに別れを告げられたときの心境が描写されていて、ひじょうにお涙頂戴的な内容となっている。
ザ・ストリーツの音楽には実験的なところもひじょうに多く、音楽評論家からも高く評価されがちだったのだが、この楽曲はより幅広いリスナーの共感を呼んで大衆的なヒット曲となったのであった。
The Futureheads, “Hounds of Love”
イギリスのポストパンクバンド、ザ・フューチャーヘッズによるケイト・ブッシュ「愛のかたち」のカバーバージョンであり、デビューアルバム「ザ・フューチャーヘッズ」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高8位を記録した。
原題は「Hounds of Love」で、恐れるべきものとしての愛を猟犬にたとえている。ケイト・ブッシュのシンセポップ的なオリジナルに対して、ザ・フューチャーヘッズのカバーバージョンはよりポストパンク的であり、「オッオッオー、オッオッオー」というようなコーラスもキャッチーでとても良い。
「NME」がこの曲を2005年の年間ベストシングルに選ぶなど、カバーバージョンであるにもかかわらず、ザ・フューチャーヘッズの代表曲として知られている。この頃、イギリスのインディー・ロック界ではフランツ・フェルディナンド、ブロック・パーティーやこのザ・フューチャーヘッズなどポストパンク的な音楽性のバンドが人気をあつめがちであった。
Green Day, “American Idiot”
グリーン・デイのアルバム「アメリカン・イディオット」からリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高61位、全英シングルチャートでは最高3位を記録した。
アメリカでの順位が低いように感じられるかもしれないのだが、実はグリーン・デイの楽曲が全米シングルチャートにランクインするのはこの曲が最初であり、あの大ヒットアルバム「ドゥーキー」からもモダンロックトラックスチャートでは「ロングヴュー」「バスケット・ケース」「ホェン・アイ・カム・アラウンド」が1位を記録していたものの、全米シングルチャートにはランクインしていなかった。
それはそうとして、タイトルを直訳すると「アメリカのバカ」であり、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領や共和党支持者、それらを誘導するメディアなどを指していると思われる。イラク戦争についての政策や報道などがおそらく強く影響している。
バンドのボーカリストでソングライターであるビリー・ジョー・アームストロングがカーラジオで聴いたレーナード・スキナードの曲でレッドネックであることを誇りに思うというようなことが歌われていて、それに反感を覚え一気に書き上げた楽曲だという。
レッドネックとはアメリカの南部に住むそれほど学歴が高くはない白人の低所得者層というような意味がざっくりとあり、人種差別主義者が多いとも見られがちである。
この楽曲とアルバムは高く評価され、第47回グラミー賞では最優秀ロックアルバム賞を受賞したほか、いくつかの賞にノミネートされていた。また、アルバムからシングルカットされた「ブールヴァード・オブ・ブロークン・ドリームス」は全米シングルチャートで最高2位を記録し、第48回グラミー賞ではパンクバンドとしては史上初の年間最優秀レコード賞を受賞した。
The Libertines, “Can’t Stand Me Now”
ザ・リバティーンズの2作目のアルバム「リバティーンズ革命(原題:The Lobertines)」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで2位を記録した。
アメリカのザ・ストロークス、ザ・ホワイト・ストライプスやオーストラリアのザ・ヴァインスらと共に、2000年代前半のガレージロックリバイバルをイギリスから盛り上げたバンドとして知られるが、その歴史は中心メンバーであったカール・バラーとピート・ドハーティの友情からはじまった。
しかし、ピート・ドハーティの深刻な薬物依存の影響などもあり、その関係性はしだいに崩壊していき、ついには留守中のカール・バラーの自宅にピート・バラーが押し入って逮捕されたりもする。もはや修復不可能なレベルではあるのだが、かつては深く通じあっていた。
そんな2人の愛憎入り交じった関係性をドキュメンタリータッチで楽曲化しているのがこの楽曲であり、タイトルにもなっている「お前は俺に耐えられない」というボーカルのかけ合いなどは現実を反映したものである。
この後、バンドはやはり解散してしまうのだが、しばらく経ってから再結成されたりもしている。
Arcade Fire, “Rebellion (Lies) “
2004年にリリースされたアルバムで音楽批評家などから最も高い評価を得ているのは、おそらくカナダのインディーロックバンド、アーケイド・ファイアのデビューアルバム「フューネラル」であろう。
様々なジャンルからの影響が感じられ、インディーロック的な音楽にスタジアム的なカタルシスをもあたえているといえるほど、壮大にして美麗である。
レディオヘッド「キッドA」などと共に2010年代を代表するロックアルバムの1つとして語られがちな「フューネラル」だが、当時のアルバムチャートでの最高位は全米で123位、全英で33位とそれほど高くはない。
イギリスではアメリカやカナダよりも遅く2005年になってからリリースされたが、シングルカットされたこの楽曲は全英シングル・チャートで最高19位を記録している。
アーケイド・ファイアのライブで最後に演奏されることも多いこの楽曲は、マスメディアやそれを操る何らかの権力がある意図を持って垂れ流す嘘と、それに対しての抵抗について歌っているようである。
Arcade Fire, “Wake Up”
アーケイド・ファイアのデビューアルバム「フューネラル」からは5曲がシングルカットされたのだが、それらのうちの最後がこの楽曲であり、全英シングル・チャートでは最高29位を記録している。
アルバムタイトルは当時、メンバーの親戚の葬儀が相次いだことに由来しているようだ。
若者の繊細さや死をテーマにしているようにも感じられるこの楽曲では、目覚めよというメッセージが歌われているのだが、その詳細については抽象的である。しかし、アンセムとしてのエネルギーには間違いなく、アーケイド・ファイアのライブではアンコールで演奏されがちである。
U2がワールドツアーの出囃子的に使ったり、イギリスのサッカーチーム、アストン・ヴィラの入場曲やスーパーボウルなどでも使われている。
Snoop Dogg feat. Pharrell, “Drop It Like It’s Hot”
スヌープ・ドッグがファレル・ウィリアムスをフィーチャーした楽曲で、プロデュースをファレル・ウィリアムスとチャド・ヒューゴのザ・ネプチューンズが手がけている。全米シングルチャートで3週連続1位を記録する大ヒットとなった。
スヌープ・ドッグとファレル・ウィリアムスがその場で競い合うようにアイデアを出していく、ひじょうにクリエイティブな空間でレコーディングが行われたようである。
キーボードやドラムマシンのビートのみならず、舌打ちの音やホワイトノイズなどをも用いたひじょうにユニークなサウンドが特徴的で、中毒性もひじょうに高い。
タイトルは女性が腰を低く下ろすセクシーなポーズのことであり、この曲がリリースされた時点ではすでにかなりポピュラーだったようだ。
Kelly Clarkson, “Since U Been Gone”
アメリカの人気オーディション番組「アメリカン・アイドル」最初の優勝者であるケリー・クラークソンの2作目のアルバム「ブレイクアウェイ」からリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高2位を記録した。
飾らないキャラクターと圧倒的な歌唱力で人気があったのだが、このアルバムでは音楽性がよりロック的になったことでも話題になった。
失恋ソングではあるのだが、あなたが私の元を去ってからより自分らしくなれたような気がする、というようなポジティブな内容なのが特徴である。