邦楽ポップ・ソングス・オール・タイム・ベスト500:100-91

100. 東京ブロンクス/いとうせいこう & TINNIE PUNX (1986)

いとうせいこう&TINNIE PUNXのアルバム「建設的」に収録されている曲で、日本のヒップホップ・ミュージック史を振り返る上で、ひじょうに重要だとされがちである。

講談社の社員として「Hot-Dog PRESS」の編集にかかわったりしていたいとうせいこうだが、連載企画である「業界くん物語」をアルバム化するにあたり、「業界こんなもんだラップ」で当時の日本ではまだそれほどメジャーではなかったラップミュージックを早くも取り上げていた。「東京ブロンクス」というワードはこの時点ですでに登場している。

1980年代の「ブレード・ランナー」的な世紀末感のようなものが色濃く、近未来の東京はブロンクスと重ね合わされる。当時、ヒップホップ・ミュージックの大きな特徴の1つだといわれていたスクラッチも導入されている。

99. にんじゃりばんばん/きゃりーぱみゅぱみゅ (2013)

きゃりーぱみゅぱみゅの5枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高3位を記録した。

多くの代表曲と同様に中田ヤスタカがプロデュースしたテクノポップ的な楽曲だが、この曲はタイトルが「忍者」を連想させるように、和風のオリエンタルなテイストが特徴である。そのためか海外でも人気が高く、2019年には映画「ジョン・ウィック:パラベラム」で使われていたりもした。

98. 泡沫サタデーナイト!/モーニング娘。’16 (2016)

モーニング娘。の61枚目のシングルとしてリリースされ、オリコン週間シングルランキングで最高2位を記録した。

ロックバンド、赤い公園の津野米咲によって提供された、ディスコファンク的な楽曲である。このシングルを最後に卒業した鈴木香音によるディスコのDJに扮したセリフにも、泡沫(うたかた)感があってとても良い。ライブでは「Do it, do it, do it dance!」のところが特に盛り上がる。

97. エイリアンズ/キリンジ (2000)

キリンジの6枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高42位を記録した。

リリース当時にはまったくトレンドではなかったシティ・ポップ的な音楽をこの時代にやっているバンドという印象があったのだが、特にこの曲は時を経るごとに評価が高まっていき、2022年に放送されたテレビ番組「関ジャム 完全燃SHOW」の「令和に活躍する若手アーティストが選ぶ平成最強ソングベスト30」では、なんと2位にランクインしていた。

2017年にLINEモバイルのテレビCMで流れた、のん(能年玲奈)によるカバーあたりから急速に一般大衆的なレベルにおける再評価が進んでいったような印象もある。

「君が好きだよ エイリアン」と、まるで異星人に対してのラヴソングであるかのようにも聴こえるのだが、タイトルが「エイリアンズ」と複数形であるように、歌っている当の本人もおそらく「エイリアン」であり、これはおそらく社会において何らかの疎外感を感じている2人がそれゆえに共鳴し合っている、もしくはそれを期待している状態について歌われた曲のようにも思える。

96. STAY TUNE/Suchmos (2016)

SuchmosのEP「LOVE&VICE」から先行配信され、Billboard Japan Hot 100では最高10位を記録した。

シティ・ポップのリバイバルが何となくこの頃から一般的にも盛り上がっていたような印象があるのだが、都会的な音楽をやるアーティストの現代版的な感じでSuchmosは話題になっていたような気がする。個人的に初めて聴いたのは新潟を拠点とするアイドルグループ、Negiccoのラジオ番組であった。

元々はJ-WAVEの「GOLD RUSH」という番組のためにつくったジングルの出来がとても良かったので、それから発展させたものであり、金曜日の夜の渋谷からバンドの地元である茅ヶ崎まで電車で帰る時に乗り合わせる泥酔客たちへの嫌悪感がベースになっているという。

歌詞には「〇〇してるやつ もう Good night」のようなフレーズがいくつも登場するが、SNSなどではこれを用いた大喜利的なノリが一時的に少し流行ったりもしていた。

95. 菫アイオライト/WHY@DOLL (2016)

WHY@DOLLの8枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高29位を記録した。

札幌出身のオーガニックガールズユニットとして、渋谷のライブハウスや池袋のCDショップなどで地道にライブ活動を行っていた楽曲もパフォーマンスもメンバーのキャラクターもすべて良い2人組がタワーレコードのアイドル専門レーベル、T-Palette Recordsに移籍して最初にリリースしたシングルである。

ディスコファンク的なアイドルポップスの中でも屈指のクオリティーであり、ユニットとして心機一転の意味もあり全体的にポジティブな楽曲なのだが、絶妙にメロウなところもあって、そのバランスがとても良い。そして、後にそれが70年代ソウルのある楽曲からの影響だと知ってから、作曲・編曲を手がけた吉田哲人氏のファンになってしまった。

個人的にはおそらくライブで歴代最もたくさん聴いた曲である。

94. N.E.O./CHAI (2017)

CHAIのデビューアルバム「PINK」からの先行シングルとしてリリースされた。

音楽的にはキュートでポップなオルタナティヴ・ポップなのだが、この曲のコンセプトでもある「NEOかわいい」には、世のルッキズムやセクシズムに対するプロテスト的なメッセージが込められてもいる(「全部同じ顔なんて変じゃない? キレイキレイしすぎ 個性はどこにある?」)。

海外でも人気があり、様々な音楽フェスティバルに出演したり、ゴリラズやデュラン・デュランの作品に参加したりもしている。

93. JUST ONE MORE KISS/BUCK-TICK (1988)

BUCK-TICKのメジャーレーベルでは1枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングでは最高6位のヒットを記録した。

1980年代後半に原宿の歩道橋などに「バクチク現象」と書かれたステッカーが貼られているのをよく見かけて、なんとなくギミック的なプロモーションなどに長けたバンドなのかという印象があったのだが、音楽性はイギリスのインディー・ロックなどから影響を受けたと思われるかなり洋楽的なものでもあり、バンドブームだったとはいえ、これを日本のメインストリームでヒットさせたのはかなりすごいことかもしれない。

とはいえ当時は音楽性よりもその奇抜なルックスの方に、少なくとも一般大衆レベルでは注目があつまっていたような気もする。この曲で香西かおりや仲村千夏などと共に第30回日本レコード大賞新人賞も受賞するが、最優秀新人賞にはジャニーズ事務所の男闘呼組が選ばれていた。

92. 上を向いて歩こう/坂本九 (1961)

坂本九が1961年の秋にリリースしたシングルで、当時、オリコン週間シングルランキングはまだ存在していなかったが、「ミュージック・ライフ」の国内盤ランキングでは3ヶ月連続1位だったらしい。

それよりも日本のアーティストとしては歴代唯一、全米シングル・チャートで1位に輝いたことが、英語でのタイトル「スキヤキ」と共にあまりにも有名で、カバーバージョンも多数存在する。

辛い時や悲しい時でも涙がこぼれないように上を向いて歩こう、という永六輔による歌詞は学生運動における挫折体験がベースになっているということだが、応援ソング的に広く受け入れられている。

個人的にはRCサクセションが「日本の有名なロックンロール」としてカバーしていた印象が強いが、坂本九が飛行機事故で亡くなる前夜にも、西武球場のライブで聴いていた。

91. ミス・ブランニュー・デイ/サザンオールスターズ (1984)

サザンオールスターズの20枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高6位、「ザ・ベストテン」では最高3位のヒットを記録した。

この当時のサザンオールスターズといえば国民的な人気バンドであるのと同時に、音楽的にも先鋭的だったり実験的なこともやっていて、一般大衆に支持されながらも「ミュージック・マガジン」の中村とうようなど、音楽評論家たちからも大絶賛を受けるというような状態であった。

とはいえ、アルバムは出せば必ず1位になっていたものの、シングルは売れたり売れなかったりもしていた。アルバム「人気者で行こう」からは当初、AOR的でもある「海」が先行シングル候補だったということだが、急遽この曲に変更されたという。それが功を奏し、アルバムが売れまくった後でも長くヒットし続けていた。

いかにも1984年的なサウンドというか、デジタルとアナログとのバランスがとても良く、さらに歌詞の内容は流行に敏感ないまどきの女性(「わりとよくあるタイプの君」)を批評しているようにも感じられるが、実は作者の桑田佳祐が彼女たちのことをただただ好ましく思っているだけ、ということが伝わり強く共感せずにはいられないのである。