クリスマスアルバムの名盤ベスト20

クリスマスソングのプレイリストも良いのだが、クリスマスアルバムにもこれでしか味わえない良さというのがある。一定のコンセプトというかムードで統一された音楽を数十分から1時間前後(中にはもう少し長いものもあるが)聴き続けられる楽しみというのはそれはそれで良いものである。とはいえ、あまりにもたくさんのタイトルが存在している上に、ストリーミングサービスの定額料金でいくらでも聴けてしまう。しかも、旬の気分を味わって聴けるのはクリスマスシーズンに限定される。そこで、これまでにリリースされてきたクリスマスアルバムの中から、これは特に良いのではないかと思える20タイトルを厳選していきたい。

20. A Christmas Record – Various Artists (1981)

のっけからまったく直球ではなく、変化球的ではあるのだが、ニュー・ウェイヴのレコードをたくさん出していたZEレコーズが1981年にリリースしたクリスマスアルバムである。スーサイド、ウォズ(ノット)ウォズ、キッド・クレオール&ザ・ココナッツのオーガスト・ダーネルといったアーティストによる、やや実験的でありながらクリスマスムードが感じられる楽曲を13曲収録している。ザ・ウェイトレスィズのニュー・ウェイヴでモダンクラシックな「クリスマス・ラッピング」が収録されているのもとても良い。

19. Tinsel And Lights – Tracey Thorn (2012)

元エヴリシング・バット・ザ・ガールのボーカリストとして近年に出版した自叙伝も好評なトレイシー・ソーンのクリスマスアルバムである。必ずしもクリスマスソングとはいえない曲も収録されているが、冬の気分では統一されている。オリジナル曲に加え、ジョニ・ミッチェルからザ・ホワイト・ストライプまで多岐にわたる楽曲がカバーされているが、いずれもトレイシー・ソーンの色に染まっているのはさすがである。「遠い渚」「エデン」「ピロウズ&プレイヤーズ」などを聴いて育ったネオ・アコースティック好きの当時の少年少女にとっては、一緒に大人になったことへの軽い感動すら覚えるアルバムである。

18. Christmas Portrait – Carpenters (1978)

日本でもひじょうに人気が高い兄妹デュオ、カーペンターズが1978年にリリースしたクリスマスである。オリジナル曲も収録されているが、ほとんどがカバー曲となっている。クリスマスアルバムをつくるのが夢だったというカレン・カーペンターの素晴らしいボーカルと美しいコーラスワークを、オーケストラルなアレンジやクリスマス気分と共に楽しむことができる。

17. A Very She & Him Christmas – She & Him (2011)

ピアノやギター、ウクレレによる繊細でオーガニックな演奏と、どこか懐かしさを感じさせる女性ボーカルがひじょうに魅力的で、クリスマス気分をおしゃれに盛り上げてくれる。よくカフェなどで流れている有名な曲をそれっぽくカバーしたタイプの音楽を、よりインディー・ポップ寄りにしてクオリティーを格段に上げたもののようにも感じられる。

16. Christmas Cookin’ – Jimmy Smith (1964)

ハモンドオルガンの音色というのは実に素敵なものだが、その魅力を最も分かりやすく伝えてくれるアーティストの一人がジミー・スミスであり、そのクリスマスアルバムなのだからもちろん最高というものである。友達に一歩差をつける、クールなクリスマスアルバムである。

15. A Charlie Brown Christmas – Vince Guaraldi Trio (1965)

人気キャラクターのスヌーピーが登場する漫画「ピーナッツ」をアニメーション化した最初の映像作品が「A Charlie Brown Christmas」で、日本では「スヌーピーのメリークリスマス」のタイトルで親しまれている。1965年に放映されたこの番組は大好評であり、それからクリスマスの定番として親しまれているようだ。ジャズピアニストで作編曲家のヴィンス・ガラルディが手がけたサウンドトラックもまた、この作品を見て育った人々には特別なものとなっているようだ。

14. The 25th Day Of December – The Staple Singers (1962)

クリスマスとはそもそもキリストのミサ(礼拝)が語源であり、それいまではすっかり商業化されて、というような苦言は昔からよく聞くものではあるが、免罪符的にゴスペル的な音楽を聴いてみるのも悪くはない。というか、実際にはとても良い。特にそれがポップ・ミュージックの世界でヒット曲を出すよりもずっと前の素晴らしい3姉妹グループ、ステイプル・シンガーズによる場合などはである。

13. A Very Special Christmas – Various Artists (1987)

収益金の一部を「スペシャル・オリンピック」に寄付することを目的としたチャリティーアルバムであり、邦題は「クリスマス・エイド」であった。マドンナ、ホイットニー・ヒューストン、ブルース・スプリングスティーン、スティング、U2、ボン・ジョヴィといった当時の人気アーティストたちが多数参加しているが、ヒップホップ勢から唯一となるRUN D.M.C.「クリスマス・イン・ホリーズ」が特に素晴らしい。クリスマス気分と共に、当時のメインストリームのポップ・ミュージックの感じを追体験できるようなところもある。

12. The Ventures’ Christmas Album – The Ventures (1965)

60年代の日本の若者たちの間に空前のエレキブームを巻き起こしたという伝説でも知られるザ・ヴェンチャーズが1965年にリリースしたクリスマスアルバムである。そのサウンドがいま聴くとフレッシュであるのと同時に、曲のイントロに当時のヒット曲(たとえば「フロスティ・ザ・スノーマン」にビートルズ「アイ・フィール・ファイン」など)が引用されているのも楽しい。

11. Songs For Christmas – Sufjan Stevens (2006)

現代の天才シンガー・ソングライターにしてマルチインストゥルメンタリストでもあるスフィアン・スティーヴンスによる、EP5枚組(!)のクリスマスBOXである。まとめて聴くと42曲、約2時間3分にも及ぶのだが、フォーキーでありながらバラエティーにとんでいて、歌も演奏もとても良いので余裕で聴けてしまう。オリジナル曲とスタンダード曲のカバーが収録されているがどちらも素晴らしく、リラックスしながらも才能にひれ伏さずにはいられない。

10. White Christmas – Bing Crosby (1945)

通算で約5000万枚のセールスを記録したといわれ、歴代で最もたくさん売れたレコードとしてギネスブックにも載っているという「ホワイト・クリスマス」を収録したビング・クロスビーのクリスマスアルバムである。元々は「メリー・クリスマス」のタイトルで78回転のレコードとして発売されたようなのだが、その後、LPレコードやカセットテープ、CD、デジタルアルバムと時代と共に媒体が変わってもずっと親しまれ続けている。「ホワイト・クリスマス」以外にもアンドリュー・シスターズをフィーチャーした「ジングル・ベル」、ハワイアンな「メレ・カリキマカ」(オリジナル盤には収録されていなかった)などひじょうに楽しめる。

9. Pretty Paper – Willie Nelson (1979)

80年代の全米トップ40ファンには「オールウェイス・オン・マイ・マインド」をヒットさせた渋いカントリー歌手という印象が強いウィリー・ネルソンだが、1975年にリリースされたスタンダードのカバーアルバム「スターダスト」が素晴らしかったり、田中康夫の「なんとなく、クリスタル」で主人公の由利が聴いていたFENで「ムーンライト・イン・バーモント」がかかったりしていた。「朝から調子のくずれる曲」と紹介されてはいるが。1979年にリリースされたこのクリスマスアルバムは、カントリー系のものとしてはかなり親しみやすく、楽しめる内容になっているような気がする。

8. A Jolly Christmas From Frank Sinatra – Frank Sinatra (1957)

ロックンロール時代にすでに突入していた1957年において、フランク・シナトラのクリスマスアルバムはすでにオーセンティックでコンサヴァティヴにも感じられていたようである。極上のボーカルで歌われるスタンダードナンバーの数々は懐かしくも贅沢な気分を味わわせてくれる。

7. Soul Christmas – Various Artists (1968)

アトランティック・レコードに所属するR&Bアーティストの楽曲をあつめた、ソウルフルなクリスマスアルバムである。RUN D.M.C.「クリスマス・イン・ホリーズ」でサンプリングされているクラレンス・カーター「バック・ドアー・サンタ」からはじまり、オーティス・レディング、カーラ・トーマス、ソロモン・バーク、ブッカーT&MG’Sなどのクリスマスソングを収録している。1991年に再発されたバージョンにはダニー・ハサウェイ「ディス・クリスマス」などが追加収録されている。

6. Elvis’ Christmas Album – Elvis Presley (1957)

ロックロールブームの真っ只中、ポップセンセーションだった頃のエルヴィス・プレスリーがリリースし、ものすごく売れたというクリスマスアルバムである。ロックンロールからルーツであるカントリーやゴスペルからの影響まで、エルヴィス・プレスリーのボーカリストとしての魅力はもちろん、音楽的にもひじょうに楽しめる内容になっている。名曲「ブルー・クリスマス」も収録されている。

5. The Beach Boys’ Christmas Album – The Beach Boys (1964)

「夏だ!海だ!タツローだ!」などともいわれていた山下達郎が冬の名曲「クリスマス・イブ」を生み出したように、サーフィン/ホットロッドのイメージが強かった当時のビーチ・ボーイズがリリースしたクリスマスアルバムも素晴らしい。「リトル・セイント・ニック」などホットロッドと呼ばれるアメリカのカスタムカーをサンタクロースのそりに置き換えたような楽曲となっている。最後にはアカペラで歌われる「蛍の光」に乗せて、メンバーを代表してデニス・ウィルソンからファンに向けてのメッセージも収録されている。

4. Motown Christmas – Various Artists (1973)

2枚組LPレコードというのは見開きのジャケットやずっしりとした重さも含めて、ゴージャスな気分にさせてくれてなかなか良いものである。このアルバムも1973年に発売された当時、そのように受け止められていたのではないだろうか。ジャクソン5、スティーヴィー・ワンダー、テンプテーションズ、シュープリームス、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズといったモータウン所属の人気アーティストたちのクリスマスソングがこれでもかというぐらいに収録されていて最高である。

3. Ella Wishes You A Swinging Christmas – Ella Fitzgerald (1960)

スウィングしなけりゃ意味ないね、というわけでジャズ・ボーカルのファースト・レディとも呼ばれるエラ・フィッツジェラルドのクリスマスアルバムは、1曲目の「ジングル・ベル」からいきなりご機嫌で、アルバムが流れている間じゅうずっとゴージャスでフェスティヴな気分を楽しんでいられる。

2. A Soulful Christmas – James Brown (1968)

1966年から1970年までの間にジェームス・ブラウンがリリースした、3枚のクリスマスアルバムのうちの一つである。社会的なメッセージをも含むファンキーな歌と演奏がとにかく最高であり、このアルバムからジェームス・ブラウンを聴きはじめるのも全然アリ、というような内容である。ジェームス・ブラウンが亡くなったのも、2006年のクリスマスのことであった。

1. A Christmas Gift For You Phil Spector – Various Artists (1963)

音を重ねることによって臨場感を生み出す、ウォール・オブ・サウンドという技法で知られる音楽プロデューサー、フィル・スペクターの代表作の一つとされるのがこのクリスマスアルバムで、現在ではこのジャンルの定番として知られているのだが、発売日の1963年11月22日にはケネディ大統領暗殺事件が起こり、アメリカ国民はそれどころではなかったともいう。とはいえ、年月と共に評価を高め、クリスマス音楽のテンプレートと化したようにも感じられる。クリスマスアルバムといえばまずはこれ、とでもいうべき素晴らしいレコードである。