ブラーの名曲ベスト20

1990年にシングル「シーズ・ソー・ハイ」でデビューしたイギリスのインディーロックバンド、ブラーはインディーダンス、ブリットポップ、オルタナティヴロックなど音楽性を変化させながら数々のヒット曲を生み出し、オリジナルアルバムは3作目の「パークライフ」以降すべてが全英アルバム・チャートで1位に輝いている。

オルタナティヴでありながら国民的人気バンドでもあり、ポップでありながら実験的でもあったこのバンドの楽曲から、これは名曲なのではないかと思える20曲を挙げていきたい。

20. Music Is My Radar (2000)

「レジャー」「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」「パークライフ」「ザ・グレート・エスケープ」「ブラー」「13」と6枚のアルバムの後で、ブラーは初のグレイテストヒッツアルバム「ベスト・オブ・ブラー」をリリースし、全英アルバム・チャートで最高3位を記録するのだが、この曲は新曲として収録され、先行シングルとして全英シングル・チャートで最高10位を記録した。

ブラーらしいポップさと実験性が絶妙にミックスされた楽曲だが、それまでに発表されてきた作品からの進化が感じられ、トーキング・ヘッズ的ではないかと思えるようなところもある。

19. She’s So High (1990)

ブラーの記念すべきデビューシングルで、全英シングル・チャートで最高48位を記録した。

デーモン・アルバーンを中心とするバンド、サーカスにアレックス・ジェームスが加入した1988年にブラーは実質的に結成されたのだが、このバンド名はJ.D.サリンジャーの小説「シーモアー序章ー」から取ったシーモアを経て、レーベルからの要請によって変更されたものである。

音楽的には当時のトレンドであったマッドチェスター/インディーダンスからの影響が感じられる。

大きなヒットにはならなかったが、「NME」はこの曲をシングル・オブ・ザ・ウィークに選んでいた。

18. Chemical World (1993)

「モダン・ライフ・ラビッシュ」から2枚目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高28位を記録した。

CDシングルにライブバージョンが収録された「ネヴァー・クレヴァー」は1992年に「ポップシーン」の次のシングルとしてリリースされる予定があったが、「ポップシーン」の売れ行きが期待したほどではなかったため、見送られたのだという。

借金返済の目的もありアメリカツアーに出たブラーだが、そこで深刻なホームシックに襲われる。しかも、当時はニルヴァーナ「ネヴァーマインド」が大ヒットした余波により、イギリスでさえアメリカのオルタナティヴロックに注目があつまるような状況であった。

そこで、誇張したイギリスらしさのようなものをコンセプトにしたのが「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」であり、当時のトレンドとはほとんど無関係だったが、高く評価された。

全英アルバム・チャートでの最高位は15位とデビューアルバム「レジャー」の7位よりも落としたが、ここでの路線変更が後のブリットポップの隆盛とブラーの国民的人気バンド化において、ひじょうに重要な役割を果たした。

この曲のミュージックビデオは自然の中で撮影され、デーモン・アルバーンをはじめメンバーのビジュアルの良さを強調するようでもあった。

17. End Of A Century (1994)

「パークライフ」から4枚目のシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高19位を記録した。

ブラーにとって3作目のアルバムとしてリリースされた「パークライフ」は前作「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」でのブリティッシュポップ路線をさらにカラフルでキャッチーにしたような感じが受けて、全英アルバム・チャートで初の1位に輝いた。ブリットポップというサブジャンルを代表するアルバムの1つでもある。

アルバムから最後のシングルとしてカットされたこの曲は、20世紀の終わりを控えたカップルをテーマにしていて、デーモン・アルバーンと当時交際していたエラスティカのジャスティーン・フリッシュマンがモデルになっているとも考えられる。

歌詞に出てくるカーペットに蟻がいる件は、当時ブリットポップのロイヤルカップルなどともいわれたデーモンとジャスティーンが実際に悩まされていた問題だという。

ミュージックビデオには映像、音声いずれもライブでの演奏が収録されている。

16. Under The Westway (2012)

デジタル配信のみのシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高32位を記録した。

ブラーからは2003年のアルバム「シンク・タンク」の制作中にグレアム・コクソンが脱退し、バンドは翌年からしばらく活動を休止することになる。2009年にはロンドンのハイドパークで久々のライブを行うが、この時にはグレアム・コクソンも再加入していた。

そういったことがあった上でリリースされたこの新曲はわりとシンプルなバラードになっているが、ロンドンご当地ソングでもあり、デーモン・アルバーンの深みを増したエモーショナルなボーカルも印象的である。

15. Country House (1995)

「グレート・エスケープ」から先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで初の1位に輝いた。

同じ日にブリットポップブームにおいてライバル関係に仕立てられていたオアシスが「ロール・ウィズ・イット」をリリースする、というかブラー側があえてそうなるように発売日を変更したのだが、このうちどちらが全英シングル・チャートで1位になるかが「バトル・オブ・ブリットポップ」として、テレビのニュース番組で取り上げられるほど話題になった。

結果としては「カントリー・ハウス」の方が1位になったのだが、こちらだけ2種類のシングルが発売されていて熱心なファンは1人で両方買ったりもするため、そもそも有利であったことが指摘されてもいた。

郊外に大きな家を買った元マネージャーにインスパイアされた内容になっているが、コミカルなミュージックビデオも含め、ショウビズ的な無意味さが特徴である。振り返るとブラーにしてはそれほどクオリティーが高い方でもないのではないかと指摘されたり、グレアム・コクソンは大嫌いだったりもするのだが、ブリットポップの狂騒や当時の気分を感じさせる楽曲としてはわりと重要なのではないかとも思える。

14. There’s No Other Way (1991)

ブラーの2枚目のシングルで、全英シングル・チャートで最高8位を記録した。

バンドにとって初めてのヒット曲であり、やはりインディーダンスからの影響が強く感じられるのだが、この次にデビューアルバム「レジャー」からシングルカットされた「バング」がそれほどヒットしなかったこともあり、一発屋の予感もわりと感じられていた。

ミュージックビデオではデーモン・アルバーンがわりと病的な感じを演じているように思えたり、家族で食卓についているにもかかわらずカメラに向かってヤバめな表情で歌っていて、まったく食事をしていないことなどが、ごく一部のねじ曲がったポップスファンからおもしろがられたりもした。

13. No Distance Left To Run (1999)

「13」から3枚目のシングルとしてカットされ、オリコンシングルランキングで最高14位を記録した。

デーモン・アルバーンのジャスティーン・フリッシュマンとの破局によるダウナーな感じがヴィヴィッドに反映された、ブルージーな楽曲である。

睡眠中の各メンバーを撮影したミュージックビデオも話題になったような気がする。

12. The Universal (1995)

「グレート・エスケープ」から2枚目のシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高5位を記録した。

「バトル・オブ・ブリットポップ」はオアシス「ロール・ウィズ・イット」の発売日にブラー側が「カントリー・ハウス」を合わせたことにより発生したのだが、これにはとりあえずブラーが勝利した。しかし、オアシスがアルバム「モーリング・ストーリー」から「ワンダーウォール」「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」といった曲をシングルカットして、全英シングル・チャートにおいてそれぞれ2位、1位を記録するに至って、オアシスが圧倒的に逆転していったように感じられた。

そもそもオアシスの音楽は一般大衆にもひじょうに分かりやすいものであるのに対し、ブラーの音楽にはちょっとした知性やセンスのようなものが必要とされるような印象がある。少なくとも「モーニング・グローリー」までの時点において、オアシスは圧倒的なクオリティーの音楽をリリースし続けていて、周知の事実として次作ではセールスを除いて大失墜するものの、一般大衆レベルでは勝負にならないことは必然でもあった。

そして、1995年にリリースされたブラーのベストソングはオアシス的な感覚とはまったくベクトルが異なるこの曲だったのではないかと考えられる。

ミュージックビデオは映画「時計じかけのオレンジ」をイメージしていると思われる。

11. Out Of Time (2003)

「アウト・オブ・タイム」からの先行シングルで、全英シングル・チャートで最高5位を記録した。

グレアム・コクソンが脱退し、3人組バンドとなってから最初のリリースである。ポップミュージックのトレンドも90年代とはすっかり変わっていたのだが、それでも人気や知名度は根強くちゃんとヒットしたのだった。

音楽的にはよりオーガニックさが感じられる一方、歌詞では希薄な人間関係に言及しているようでもある。

10. For Tomorrow (1993)

「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」から先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高28位を記録した。

バンドの将来への不安をかかえた状態でのアメリカツアーによって感じたホームシックや、グランジロックなどアメリカ文化の侵攻に対する不安や不満から生まれたともいわれる「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」は、ザ・キンクスやザ・スモール・フェイセズなどからの影響が感じられる誇張したイギリス性のようなものが特徴である。

この曲にも先行シングルにしてアルバム1曲目らしくそのエッセンスは凝縮されていて、純粋にロマンティックでとても良い曲である。

9. Coffee And TV (1999)

「13」から2枚目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高11位を記録した。

グレアム・コクソンがリードボーカルを取っている点が何といっても最大の特徴なのだが、これがまたブラーらしさを残しながらインディーポップ的でとても良い。

牛乳パックを擬人化したキャラクターが大活躍するミュージックビデオも、ひじょうに高く評価されている。

8. To The End (1994)

「パークライフ」から2枚目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高16位を記録した。

オーケストラを効果的に起用し、恋の終わりをドラマティックに描いたこの曲では、ステレオラブのレティシア・サディエールによるゲスト参加も大いに光っている。

7. Tender (1999)

「13」から先行シングルとしてリリースされ、全英チャートで最高2位を記録した。

この曲にもまたデーモン・アルバーンのジャスティーン・フリッシュマンとの破局が影響していると思われるのだが、ゴスペルのコーラス隊とグレアム・コクソンのソロパートなどが聴きどころでもある。

悲しみの果てに救いを求めるというタイプの音楽を、インディーポップとして実現している点がひじょうに画期的であり、心を動かされもする。

6. Popscene (1992)

アルバム未収録のシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高32位を記録した。

それまでのインディーダンス的な音楽性から脱し、パンキッシュかつブリティッシュポップ的な楽曲でファンや批評家からの評価も概ね高かったのだが、この最高位はバンドやレーベルにとって望ましいものではなかったようだ。

とはいえ、ファンの間での人気は引き続き高く、後のブリットポップ化に向けての契機となったシングルとして再評価されてもいる。

5. This Is A Low (1994)

「パークライフ」の収録曲でシングルカットはされていないのだが、ひじょうに人気と評価が高く、初のグレイテストヒッツアルバム「ベスト・オブ・ブラー」にも、シングル曲以外では唯一収録されている。

イギリスにおいて様々な災害の原因となっている低気圧がテーマになっているが、歌詞はアレックス・ジェームスがクリスマスにデーモン・アルバーンにプレゼントしたハンカチに描かれていた海図にインスパイアされたという。

4. Parklife (1994)

「パークライフ」のタイトルトラックで、3枚目のシングルとして全英シングル・チャートで最高10位を記録した。

モッズのバイブル的映画「さらば青春の光」に出演していた役者のフィル・ダニエルズがゲスト参加して、ミュージックビデオにおいても、デーモン・アルバーンと共演している。

ポップでキャッチーなイギリスらしさは誇張されていたはずなのだが、ブリットポップ時代においてはもはや違和感がないようにも感じられた。

3. Beetlebum (1997)

「ブラー」からの先行シングルで、全英シングル・チャートで1位に輝いた。

ブリットポップの狂騒は過ぎ、アメリカのオルナタティヴロックなどからも影響を受けたダウナーな音楽性にシフトしていったブラーだが、コマーシャルスーサイド(商業的自殺)なのではないかというような予想に反して、むしろ信頼を回復したようにも思える。

楽曲はデーモン・アルバーンの当時のパートナーであったジャスティーン・フリッシュマンとのドラッグ体験にインスパイアされているといわれている。

2. Song 2 (1997)

「ブラー」から2曲目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高2位を記録した。

当初はよりスローな曲として書かれていたが、グレアム・コクソンの提案でスピードアップしてみたところなかなか良かったのだという。とはいえ、バンドメンバーとしてはややエクストリームなのではないかという自覚はあって、ほぼジョークのようなつもりでこの曲をシングルとしてリリースするのはどうかなどといたのだが、ヒット曲としてのポテンシャルを見いだしていたのかレーベルがノリノリだったのでカットしてみたところ大ヒットという流れだったようだ。

メンバーが壁に向かって吹き飛ばされているようにも見えるミュージックビデオにも、勢いがあってとても良い。

1. Girls And Boys (1994)

「パークライフ」の先行シングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高5位を記録した。

誇張したイギリス性の懐古趣味的なところが1つにはとても楽しめた「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」だったのだが、今度はジャージにスニーカーでディスコティックでキャッチーなシングルをリリースしてきた。

芯にあるポップ感覚のようなものは一貫しているが、表面的なモードは次々と変わり、その軽やかさがとても素晴らしい。深刻で内容が重いのもまた良いのだが、このように軽やかで自由なのもポップミュージックの素晴らしさの一つだと思える。