「スター・ウォーズ:キャシアン・アンドー」【TV Review】

「スター・ウォーズ」シリーズの最新作「キャシアン・アンドー」の配信が、2022年9月21日からディズニープラスではじまった。最初に全12話中3話が一挙に配信され、その後は毎週水曜日に1話ずつ、最終話は11月23日となっている。今回がシーズン1なのだが、すでにシーズン2の12話が配信されることも決定しているという。現時点でまだ3話しか配信されていないのだが、評判はすこぶる良い。「スター・ウォーズ」のTVシリーズは2019年の「マンダロリアン」から「ボバ・フェット/The Book of Boba Fett」「オビ=ワン・ケノービ」と続いてきて、いずれもとても良いのだが、今回の「キャシアン・アンドー」はそれらと比較してもすでにかなり良く、今後、回を重ねていくごとにもっともっと良くなっていくのではないかという評判である。

ところで、「スター・ウォーズ」といえばアナキン・スカイウォーカーやハン・ソロ、C3-POにR2-D2などが活躍した1977年公開の映画が最初である。日本では翌年に公開され、個人的にも小学生だった当時に旭川の平和通買物公園にあった映画館で父と一緒に見たことが思い出される。R2-D2のソフトビニール人形を買ったものの、旭川電気軌道のバス車内に忘れてしまい、電話をかけたのだが見つからず、憂鬱な気分になったこともあった。それを実はずっと引きずってはいたのだが、90年代に原宿のキディランドで買い直したことで回収された。ついでにC3-POも買って、現在も本棚に飾ってある。という感じで、カジュアルに「スター・ウォーズ」に親しんではいたものの、その後、シリーズものが次々と出続けてさすがに追い切れていないというか、見失ってしまったというようなタイプの人たちもけして少なくはないような気もする。

「スター・ウォーズ」「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」「スター・ウォーズ/ジェダイの逆襲」が1983年までに公開され、その後もポップカルチャーとして人気はあった。当時のビデオカセットはひじょうに高価で庶民にはなかなか手が出るものではなかったような気もするのだが、90年代にはこれら3本組がお手頃な価格で買えたりもしたので、おそらくルミネ新宿にあった頃のタワーレコードあたりで購入したはずである。1999年に「スター・ウォーズ」の新作映画が16年振りに出るということでひじょうに話題になっていたのだが、それが「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」であり、「トレインスポッティング」に主演したことなどで大人気だったユアン・マクレガーなども出演していた。1983年までに公開された3本の「スター・ウォーズ」映画よりも以前の話であり、この後にさらに2本が公開されるということであった。それが「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」なわけだが、この時点で最初に公開され、個人的には旭川の平和通買物公園にあった映画館で父と見た「スター・ウォーズ」は、「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」と呼ばれるようになった。そして、「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」「スター・ウォーズ/ジェダイの逆襲」のタイトルにもそれぞれ「エピソード5」「エピソード6」という文言が挿入された。

もはやC3-POやR2-D2ではない人気キャラクターも、たくさん出てきていて、フィギュアやグッズになったその姿を街でよく見かけたものである。「スター・ウォーズ」シリーズはこれでもうおしまいということになっていたはずなのだが、2012年に「スター・ウォーズ」の創作者であるジョージ・ルーカスがルーカスフィルムをウォルト・ディズニー・カンパニーに売却すると、2015年以降に「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」が製作、公開された。これらは「スター・ウォーズ エピソード6 ジェダイの逆襲」よりも後の話であり、それぞれエピソード7、エピソード8、エピソード9とされている。これまでに挙げた9作品が「スカイウォーカー・サーガ」と呼ばれ、「スター・ウォーズ」シリーズの中心となっている。

他にアニメのシリーズがあったりもするのだが、「スター・ウォーズ」シリーズにさらに深みを加えたものとして、「アンソロジー・シリーズ」と呼ばれるスピンオフ的な作品がある。最初に公開された「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」は「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」よりも以前を描いていて、これがひじょうに好評であった。「スター・ウォーズ」シリーズで最も泣けるという声もあるのだという。これが公開されたのが2016年であり、次に「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」が2018年なのだが、興行的にいまひとつであり、その後に予定されていたオビ=ワン・ケノービやボバ・フェットについての映画の製作が中止されるレベルだったようだ。オビ=ワン・ケノービの方はTVシリーズとなって、2022年にディズニープラスで公開された。

それで、やっと「キャシアン・アンドー」である。「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」において、冷静沈着かつ厳格な反乱軍の情報将校として活躍していたのがキャシアン・アンドーである。今回のシリーズは「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」以前の話であり、いかにして反乱軍が誕生したかということが描かれているようだ。キャシアン・アンドーを演じるディエゴ・ルナは、製作総指揮にも名を連ねている。監督のトニー・ギルロイは「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」にも脚本やポストプロダクションなどで参加していたが、「ボーン・アイデンティティー」など「ボーン」シリーズを監督したことでも知られ、サスペンス的な描写に定評がある。そして、「キャシアン・アンドー」には、その特性がじゅうぶんに生かされているようにも感じられる。

様々な運命に翻弄され、目的を失っていたキャシアン・アンドーに残されていた希望は生き別れた妹の再会だったのだが、それが事件のきっかけにもなる。第1話がはじまってそれほど経ってはいないうちに、ノアール的な世界で命乞いをする男を冷酷に射殺するシーンがある。果たして本当に「スター・ウォーズ」シリーズを見ているのだろうかと思わされたりもするのだが、いろいろと未来的な機械やロボットのようなものが出てきたりもするので、やはりそうなのだと気づいたりもする。「スターウォーズ」シリーズにしては人と人との関係性に深みが感じられ、セックスをほのめかすような場面さえある。「スター・ウォーズ」シリーズにまったく興味がない人たちをも楽しませるレベルのクオリティーなのではないかと思えたりもして、しばらくシリーズから離れていたのだが、これを機会に入り直してみて、過去の作品を懐かしく見直したり、まだ見ていない作品を初めて見るきっかけにもふさわしいかもしれない。

「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」でのキャシアン・アンドーの人間性がどのようにできあがっていったのかが、その5年前を舞台に描かれているのだが、「キャシアン・アンドー」を見てから「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」を見るというのも順番としてはなかなか乙なものである。また、ファシズムや移民などについての今日の社会的な気分を、マイルドに反映しているようなところもとても良い。