ブラック・カントリー、ニュー・ロード「アンツ・フロム・アップ・ゼア」【アルバム・レヴュー】

イギリスのインディー・ロックバンド、ブラック・カントリー、ニュー・ロードの2作目のアルバム「アンツ・フロム・アップ・ゼア」が2022年2月4日にリリースされ、とても良いので取り上げておきたい。

約1年前にリリースされたデビューアルバム「フォー・ザ・ファースト・タイム」もポスト・パンク的な音楽性とサックスのサウンドが効果的に使われているところなどがひじょうにユニークであり、未完成なところも含めてとても楽しかった。しかも、これが全英アルバム・チャートで最高4位と、こういったタイプの音楽にしてはかなり売れたことにも驚かされた。

そして、この2作目のアルバムでは格段の深化を見せ、現段階ではかなり気が早いような気もするのだが、2022年の年間ベストアルバムではかなりの上位に入るのではないかという気もしている。とはいえ、ボーカリストでギタリストのアイザック・ウッドの脱退がアルバムがリリースされる5日前に発表され、現時点ではこのラインナップでの最後のアルバムになる可能性もある。脱退の理由はメンタルヘルス的なものであり、バンドはベーシストのタイラー・ハイドを新たなボーカリストとして活動を継続し、最初の2枚のアルバムからの曲はライブでは演奏しないようだ。また、アイザック・ウッドが復帰を望んだ場合には、いつでも受け入れる準備があるともしている。ちなみに新しくボーカリストに選ばれたタイラー・ハイドの父親は、アンダーワールドのカール・ハイドである。

ポスト・パンクをベースとした音楽性で、やはりサックスがひじょうに印象的である点については基本的にデビューアルバムと変わってはいないのだが、楽曲がひじょうに分かりやすくなっている。それでいて、そのエッセンスであるユニークな精神性は損なわれていない。デビューアルバムの楽曲はそれ以前からライブで演奏されていたものであり、アルバムのために新しく曲をつくったのは今回が初めてだということである。やはりイギリスのポストパンク的なバンドであるブラック・ミディと親しくしていたり、アーケイド・ファイアを目標としていることが納得できるアルバムとなっている。

アルバムジャケットでは透明なビニールバッグのようなものに飛行機が入っていて、フックでウッディな壁に掛けられているのだが、Apple Musicで聴いているとこのビニールバッグのようなものから飛行機が飛び出す。1曲目は約55秒間の「イントロ」で、いきなりサックスが最高である。ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンド的でもジョージ・マイケル「ケアレス・ウィスパー」的でもなく、少しはデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ的だったり、わりとジェームス・チャンス&ザ・コントーションズ的ともいえるサックスという感じである。

続く「カオス・スペース・マリーン」ではサックスに加え、バイオリンなども効果的に用いられ、アイザック・ウッドが最初に歌うフレーズが「And though England is mine」で、ザ・スミスを連想させたりもする。約3分37秒の曲なのだが、情報量と演奏のテンションがすさまじく、まずこれを聴いて気に入ったならば、このアルバムはその人にとって最高の音楽体験になるだろう。この曲などを聴いていると、早くもイギリス版アーケイド・ファイアと呼ばれる日もそう遠くはないのではないか、という気もしてくるのである。中心メンバーでもあったアイザック・ウッド脱退後のバンドがどのような方向に向かっていくのかについては、未知数ではあるのだが。

「グッド・ウィル・ハンティング」は80年代の産業ロック時代に聴いた覚えがある、いにしえのシンセサウンドのようなイントロではじまるのだが、これもやはり素晴らしいインディー・ロックであり、「She had Billie Eilish style」なんていうフレーズが歌詞に入っているところもとても良い。ポスト・パンク的でありながら抒情性や絶妙なニュアンスを感じさせ、さらにはピクシーズやニルヴァーナ、初期のレディオヘッドなどに見られたラウド・クワイエット・ラウドというか、サウンドの強弱を効果的に用いたサウンド上の特徴も生かされている。

サックスソロのイントロではじまり、ほとんどがインストゥルメンタルである「マークズ・テーマ」は、バンドの初期の支援者であり、デビューアルバムのリリース直前に新型コロナウィルスで亡くなったサックス奏者、ルイス・エヴァンスの叔父に捧げられた曲だという。このアルバムに収録された曲はいずれも素晴らしいのだが、

最後は約12分37秒にも及ぶ大作「バスケットボール・シューズ」で、これなどはまさに真骨頂ともいえる楽曲である。静かなインストゥルメンタルではじまるのだが、徐々に熱を帯びていき、3分を過ぎてからやっとボーカルが入り、そこからはシンガーソングライター的な楽曲としてもとても良く、少しするとまたバイオリンとギターによるヴェルヴェット・アンダーグラウンド的ともいえるインストゥルメンタル、そして次にはインディー・ポップ的になり、演奏にエクスペリメンタル的なところが強めになるにつれ、ボーカルもシャウト気味になったりもする。そして、またしても静寂の後にラウドな演奏とアンセミックなコーラス、スタジアムロック的ともいえるドラムとインディー・ポップなギターにサックス、などというかなりの展開を見せたりもして大満足である。

計10曲で約59分と、最近のインディー・ロックのアルバムにしては長い方なのではないかというような気もするのだが、まったく退屈をしている暇などないほど刺激的かつめくるめく情報量の坩堝にして、素晴らしい演奏と歌というどえらいアルバムである。インディー・ロックというジャンルにしては、久しぶりにガツンときた印象である。