100 gecs「10,000 gecs」【Album Review】

100 gecsの2作目のアルバム「10,000 gecs」がリリースされた。2019年にリリースされたデビュー・アルバムが「1000 gecs」だったので、「gecs」が10倍になったということである。

ところでこのアーティスト名にも入っている「gecs」とはどういう意味で何と読むのか、という疑問があるわけだが、正解は爬虫類の「ヤモリ」のことで「ゲックス」と読むらしい。つまり、「ワン・ハンドレッド・ゲックス」というアーティストによる「テン・サウザンド・ゲックス」というアルバムというわけである。ちなみに「ヘアカット100」を「ヘアカットひゃく」と読んでいた人が41年前の旭川にはいたような気がするのだが、「10,000マニアックス」のことを「いちまんマニアックス」と読んでいる人には会ったことがないように思える。

というようなことはまあまあどうでもいいのだが、それでなぜアーティスト名が「ヤモリ100」なのかというと、メンバーのローラ・レスが通販でヤモリを1匹注文したら間違えて100匹届いたからとどこかで読んだような気もするのだが、どうも忌野清志郎がRCサクセションのバンド名の由来について、赤いワニがゾロゾロと歩いている夢を見たから「Red Crocodile Sccession」で、それを略したものだとウソの説明をしていたのに近い印象を受ける。

というようなムダ話をなぜにダラダラとしているのかというのはまあおいておいて、このアルバムがとても好きすぎてリピート再生して楽しみまくっているということである。とはいえ、2023年3月17日に配信開始されたばかりなのにそんなに何度も繰り返し聴けるのか、という疑問はまああるわけだが、10曲収録で約27分しかないので、まあ可能である。

それで、この100 gecsというアーティストはディラン・ブレイディとローラ・レスの2人組ユニットで、アメリカはミズーリ州セントルイスの出身である。WBCことワールドベースボールクラシックで日本代表チームに選出されて大活躍中のラース・ヌートバーが所属するカージナルスの地元である。ちなみにたけし軍団のガダルカナル・タカとつまみ枝豆はかつてカージナルスというコンビを組んでいて「お笑いスター誕生‼︎」などに出演していたのだが、事務所の先輩に星セント・ルイスがいたため、セントルイス・カージナルスでカージナルスになったらしい。

話を戻すと2019年のデビュー・アルバム「1000 gecs」はものすごくヒットしたというわけでは特にないのだが、新しい音楽を好みがちな詳しい人たちの間ではわりと評判になっていて、その音楽性はハイパー・ポップなどとも呼ばれていた。というような情報からだと、何やらややこしくて凝っていて、閉じられたマニアが好みそうな音楽なのかもしれない、などとも思われがちなのだが、まったくそんなことはなく、実に痛快で私のような単純なミーハーでも大いに盛り上がれるので最高である。

今回のアルバムではこれまでとかなり音楽性も変わっていて、ヘヴィー・メタル的な要素が強くなっている。リンキン・パークの有名曲をリミックスしたりもしていたので、何となく興味がそっちの方に移っていたのかと思いきや、素材として完全に遊びまくっている。批評性とかそういうのがもしかするとあるのかもしれないが、なんとなくカッコいいからとか楽しそうだからという理由だけでこれらを利用しているようなポップさがある。

アルバムの1曲目に収録された「Dumbest Girl Alive」などはその典型であり、ヘヴィー・メタルとかテクノとかその辺りの要素が混じりあっているのだが、小賢しくもなければ脳が筋肉でできてもいないという、ちょうどいい辺りを絶妙に突いている。最もバカな女、というようなタイトルもとても良い。2曲目の「757」がハイパー・ポップのイメージにわりと近めなテクノポップ風で程よいチープさもあって、加工されたボーカルも意味はよく分からない。しかし、これがまた良いところに入っていて、というのも次の「Hollywood Baby」がまたハード・ロック/ヘヴィー・メタル再構築的な楽曲で、カロリーがわりと高めだからである。

この曲のミュージック・ビデオがとても良く、部屋の中で花火をしまくって盛り上がっている。この抑制の効いたやりたい放題とでもいうべき、絶妙に良い感じというのは、まさに部屋の中で花火をやりまくる感じに近いな、と思ったりするのである。

「Frog On Floor」は一転してノヴェルティーソング調で、男性メンバーのディラン・ブレイディがリード・ボーカルで箸休め的に聴いていると、意外にコーラスが良いのではないかと思い、今度はボーカルがローラ・レスに変わって、テンポがスローになりリズムも変化する。いつの間にか床の上にいたカエルについて歌われているのだが、途中から何かの比喩なのではないかと思えたりもする。

そして、「Doritos & Fritos」なのだが、タイトルがスナック菓子である。ニュー・ウェイヴ的にクールなのだが、歌い方が気怠いと思いきやまた加工され、男性ボーカルの程よくダサいかけ声的なところに油断にも似た安心をしていると韻を踏みまくり、バズーカというチューインガムを噛み、キューバまで泳いでいき、メデューサによって石に変えられる、というくだりによく分からない感心をしている。

「Billy Knows Jamie」がまた不穏気味にファンキーなベースにメタル的なギターリフ、テクノ的なエフェクトなどもややあるのだが、デスボイス的なシャウトやカオスなエディットにスクラッチ、何らかの暴発と収束を思わせるエンディングなど情報量が多い。

「One Million Dollars」はやはりメタル的なギターにのせて、TikTokで聴かれるような機械的な女性ボイスでタイトルがただただ連呼される。かと思いきや、急にファンキーなチョッパーベースに電子音に「F※※k you!」で頭がクラクラするというか、千鳥ノブばりに「それは何?!」とツッコミたい衝動に駆られる。

「The Most Wanted Person In The United States」は何やら殺人事件を起こして追われている人物をテーマにしているようだが、ヒップホップ的なリズムにスレンテンである。あのレゲエ界に多大なる影響を与え、セックス・ピストルズ「アナーキー・イン・ザ・U.K.」にメロディーが似ているのではないかなどとも言われたが、実はカシオのキーボードにプリセットされていたリズムパターンだったというあれである。さらに海外アニメーションなどでなんとなく聴き覚えのある、あの「ボヨヨ〜ン」的な効果音も文字通り効果的の用いられている。かつみ❤︎さゆりのさゆりによる「ボヨヨ〜ン」もおそらくやっている時にこのようなサウンドがイメージされていると思われる。

「I Got My Teeth Removed」は、まずは男性ボーカルでの切々と歌われるバラードであり、ここに来てまともな歌モノかいと思わせるものの、テーマはどうやら歯が抜かれることらしい。まあそういうやつなのかと解釈しかけていると、いきなりザ・スペシャルズかマッドネスかレピッシュかというぐらいのスカ・リバイバルである。どこまで引き出しがあるのだろうか。しかも、マニアックになりすぎず、あくまで軽いノリなのがとても良い。

あっという間にアルバム最後の曲である「mememe」なのだが、これがおそらく最も以前からある曲で、加工されたボーカルなどが特徴的なのだが、メロディーに不思議な哀愁と中毒性があり、これがまたとても良いものである。

というわけで、いろいろと適当に書いてきたわけだが、これらはあくまでダイジェスト的なことであり、しかもすべてが約27分間の間に起こる。個人的にはここ最近の新しい音楽アルバムとしては特に楽しめたし、最新型のポップ・ミュージックといって良いのではないかと思う。これがメジャーにヒットしたりするとかなり楽しいのだが、さすがにそれにはハードルが高いような気もする。

100 gecs – Dumbest Girl Alive

100 gecs – Hollywood Baby

100 gecs – Doritos & Fritos

100 gecs – mememe