「女芸人No.1決定戦 THE W 2019」について。

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「女芸人No.1決定戦 THE W」が今年も開催され。日本テレビ系で生放送された。私は仕事のため、リアルタイムで観ることができなかったが、深夜に録画されたものを観て、エンターテインメントとして素晴らしく、希望に満ち溢れた最高のコンテンツだと思った。今年観たお笑い賞レース番組の中で、最も満足度が高かったかもしれない。

とはいえ、今回で3回目の開催となる「女芸人No.1決定戦 THE W」を私が放送されてすぐに観たのは、実は今回が初めてである。一昨年、ゆりやんレトリィバァが優勝した回は未だに観たことがないし、昨年の阿佐ヶ谷姉妹が優勝した回は、放送されてからかなり経った今年の9月、帰省していた旭川から札幌までの高速バスの中で、Huluで配信されていたものをiPhoneで観た。お笑い賞レース番組がかなり好きである私がこの大会を観ていなかった理由は、やはりそれほど面白くないのではないかと思っていたからだろう。しかし、高速バスの移動時間にほぼ暇つぶし的に観た「女芸人No.1決定戦 THE W 2018」はひじょうに面白く、今年からはちゃんと観た方が良いのではないかと思わせるにじゅうぶんであった。

お笑いがそこそこ好きではあるが、未だに蔓延っているミソジニーでホモソーシャルな精神性にうんざりさせられることも少なくなく、そういうのにはなるべく触れなくてもすむように努めてはいる。「女芸人No.1決定戦 THE W」にはその必要がほとんどなく、ほぼ安心して観ることができるのがまず良い。大勢の男性芸人の中に女性芸人が入ると、未だに容姿をいじったり性的ないやがらせを受けたりして、それをエンターテインメントとして消費することに躊躇がないという可及的且つ速やかに無くしていくべき文化がお笑い界にはまだあり、それはメディアや舞台を通し、社会にも影響をあたていく。そのような環境においては、女性芸人の優れた才能が正当に評価されにくい状況もあり、そういった意味でこの番組の存在意義はひじょうに大きいものだと思える。

こういった大会そのものの存在そのものが素晴らしい上に、司会者、審査員、ルールやシステム、そしてなによりも出場した芸人とそのネタのクオリティー、どれもがピッタリとハマり、お笑い賞レースとしても演芸番組としても最高だったのではないかと思う。

「女芸人No.1決定戦 THE W」の司会をこれまではチュートリアルの徳井義実が務めていたが、今年は謹慎中ということで、フットボールアワーの後藤輝基が抜擢された。漫才師としてはもちろん、バラエティー番組のMCとしても素晴らしい才能を持ち、関西のお笑い芸人でありながらミソジニーに染まっている印象がない。そして、日本テレビのアナウンサーである水ト麻美だが、進行をしっかりと行いながら、出場芸人のネタや番組を心から楽しんでいる様子が、観ていてとても心地よい。

審査員は清水ミチコ、アンガールズの田中卓志、笑い飯の哲夫、久本雅美、ヒロミ、ハイヒールのリンゴと、男女、関東と関西、コントと漫才といったバランスが絶妙である。これに視聴者による国民投票が加わることによって、笑いのプロである審査員と一般視聴者の間の感覚の違いが可視化される。審査員が全員、舞台の上に立つことによって名を成した人たちだというのも良い。番組中のコメントも、出場者に対するリスペクトが感じられる好意的なものであった。

裏実況ルームといわれるところには、ベテランの男性芸人が何人かいて、おでんやみかんなどを食べながら実況を行っていたようである。番組中にも時々、抜かれたのだが、こういう大物の芸人も絡むことによって番組の箔は付くのでそれは良いのだが、ここだけは観ていてあまり楽しくなかった。というか、半ばブチ切れ気味であった。

システムが1対1の勝ち抜き方式となっていて、A、Bそれぞれのブロックにおいて、それまでに勝ち残っている出場者と新たにネタを終えたばかりの出場者とのどちらが良かったかが判定される。これで勝った方が次の出場者とまた競うことになるのだが、この方式もまた個人的にはとても面白かった。初めにシステムを聞いた時にはどうかと思ったし、お笑い賞レース番組でありがちな、後半にいくにつれて有利になるようなところもあるのではないかとも感じた。実際にAブロックについては結果だけ見るとそのように感じられなくもなく、最後に登場した3時のヒロインが勝ち上がったのだが、Bブロックにおいては2番目に登場したはなしょーが、前回の覇者である阿佐ヶ谷姉妹を含む3組をなぎ倒し、最終決戦に勝ち上がることになった。

Aブロックのトップバッターは元自衛隊員で芸歴半年だというそのこであり、楽器も用いたユニークな鉄道あるあるネタがとても面白かった。東京で電車を利用している人たちにとってはたまらいリアリティーと着眼点が響いたのではないかと思うが、そうではない人たちにとっても面白く見せられるだけのエンターテインメント性があったように思える。リアリティーと誇張された部分とのバランスが絶妙であった。ネタもポップだし、テレビのサイズ感にも合っているような気がする。

にぼしいわしは不思議感覚の漫才なのだが、一つのワードで押しまくるというベタな部分とのバランスがとても面白く、笑い飯の哲夫が評価していることに納得した。一つの番組で様々なタイプの演芸を楽しめるのも、「女芸人No.1決定戦 THE W」の魅力である。とはいえ、抽選によって決定された次の出場者は、同じく漫才の123☆45である。この表記で、イズミヨーコと読む。結成は2008年、ライブシーンで力をつけ、2014年には「第13回漫才新人大賞」で決勝しも進出するが、翌年に解散し、コンビだった二人は東京と岩手に離れてしまう。昨年の「女芸人No.1決定戦 THE W」を観ていて、LINEでやり取りをしたことがきっかけで再結成することになり、いきなりの決勝進出である。漫才の技術も、地方色を活かしたタイプのネタかと思いきや、どんでん返し的な展開がある構成も素晴らしかった。

次に登場したハルカラは日常的なやり取りを題材にしたコントを披露したが、これもひじょうにクオリティーが高く、現在の女性芸人の充実ぶりと、観ていないので良くは知らないが、予選審査の妥当性を窺わせるものであった。

3時のヒロインはよしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のトリオで、ツッコミの福田麻貴はアイドルグループ、つぼみの元メンバーである。ネタも福田麻貴が書いているが、ボケのゆめっち、かなでと3人それぞれがコメディエンヌとして優れていて、トリオとしてのトータルな魅力にも繋がっている。

Aブロックで勝ち抜き、最終決戦に進出したネタは、朝ドラに憧れるのだがどうしてもアメリカのテレビドラマ風になってしまうというもので、センスと演技力とチームワークという、このトリオの魅力がじゅうぶんに発揮されたものであった。ポップでキャッチーではあるのだが、根底には上方演芸の基礎が感じられる。ゆめっちは熊本、かなでは東京の出身だが、ここは大阪の下町出身だという福田麻貴によるところが大きいのでだろう。

Bブロックのトップは、すでにテレビタレントとしても活躍中のおかずクラブである。テレビ出演が増えても、ネタに対するストイックな姿勢が評価されることも多い。街で紐パンを売る仕事という、ひじょうに謎めいた設定と独特な世界観を感じさせるネタで、審査結果では敗退したものの、強い印象を残したように思える。ネタの後半で八王子というワードが効果的に用いられるのだが、偶然にも私はこれを八王子市内で観ていたのであった。

次に搭乗したのがはなしょーで、一昨年にも決勝進出し、昨年は準決勝で敗退していたという。嫁と姑というありがちといえばありがちな設定ながら、構成と特に演技力に優れたコントで、審査員からの評価もひじょうに高かった。

昨年の優勝者である阿佐ヶ谷姉妹も、このコンビにしか出来ないであろう設定とネタ運びが素晴らしかったのだが、審査においては僅差ではなしょーが勝ってしまう。続くつぼみ大革命は、よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のアイドルグループ、つぼみが改名したものである。9人組というメンバーの多さを生かした美容室が舞台のコントで、構成が見事であった。つぼみ大革命のネタを書いているのは3時のヒロインの福田麻貴らしく、素晴らしい才能である。審査員からも高評価だったが、これにもはなしょーが勝ち抜いていった。

最後の出場者は3回連続で決勝に進出している、紺野ぶるまであった。センス、演技力共に実力者であることは間違いない。今回は高校の教師を演じるコントだが、生徒に夢の大切さを説きつつ、自分自身の夢は働かないで暮らすことという、シニカルな内容であった。現在の日本社会は現実そのものが酷すぎて、このようなタイプのお笑いを楽しむ余裕を失ってしまったようにも思える。

こうして、最終決戦は3時のヒロインとはなしょーとの対戦となった。先攻のはなしょーは女性保育士と男児を題材としたコントで、構成、演技力共に素晴らしかった。3時のヒロインは失恋した女性とその友人をテーマにしたコントだったが、出て来たばかりのクラブから聴こえてくるジュリア・マイケルズ「ア・ハー」のあるフレーズが、繰り返しボケとして使用されるというものである。やはりポップでキャッチーなのだが、ここでも上方演芸の伝統を継承するようなボケとツッコミや天丼の快感が宿っている。

これは本当に良い最終決戦であった。一騎討ちという感じがとても良い。結果は3時のヒロインの優勝だったが、クオリティーは甲乙付け難く、タイプは対照的であった。

性差別に対する意識が高まり、ホモソーシャル的なハラスメントを許さない、新しい時代精神にアップデートしたエンターテインメントが、この大会からは感じられる。これからも楽しみにしていきたい。

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