ジャネット・ジャクソン「ミス・ユー・マッチ」

「ミス・ユー・マッチ」はジャネット・ジャクソンの4作目のアルバム「リズム・ネイション1814」から最初のシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで4週連続1位、全英シングルチャートで最高22位を記録した。

ジャクソンの末っ子として知られるジャネット・ジャクソンは幼い頃からパフォーマンスに参加したりテレビドラマに出演したりしていたのだが、ソロアーティストとして本格的に活動しはじめるのは16歳の頃であった。

最初の2枚のアルバム「ヤング・ラヴ」「ドリーム・ストリート」はティーンエイジポップ的な内容であり、シングルカットされた「ヤング・ラヴ」「ときめき・ラヴチャンス」がビルボードのR&Bチャートではトップ10入りしていたものの、ポップチャートではそれほどヒットしていなかった。

全米アルバムチャートでの最高位も「ヤング・ラヴ」が63位、「ドリーム・ストリート」が147位である。18歳の頃にデバージのジェイムズ・デバージと結婚するのだがすぐに離婚したりした後、3作目のアルバム「コントロール」がリリースされる。

プリンス一派で映画「プリンス/パープル・レイン」にライバルバンド役で出演していたザ・タイムのメンバーでもあったジャム&ルイスことジミー・ジャムとテリー・ルイスをプロデューサーに迎えたこのアルバムは、全米アルバムチャートで1位の大ヒットを記録し、全英シングルチャートで1位となった「あなたを想うとき」をはじめ、「恋するティーンエイジャー」「ナスティ」「コントロール」「急がせないで」がトップ5以内にランクインした。

これによってジャネット・ジャクソンはマイケル・ジャクソンの妹というイメージのみならず、ソロアーティストとしての人気を獲得することとなり、次作にも大きな期待が寄せられていた。この時期はマドンナやホイットニー・ヒューストンをはじめ、女性ソロアーティストがポップミュージック界において、存在感をしめしはじめたような印象もあり、ジャネット・ジャクソンもそのうちのトップグループに入っているという認識は広まっていたように思える。

「コントロール」から約3年半後となる1989年の秋に待望のアルバム「リズム・ネイション1814」がリリースされるのだが、レーベルもプロモーションにかなり力を入れている感じがひしひしと伝わってはきていた。その一例として、アルバムから最初のシングルとしてリリースされた「ミス・ユー・マッチ」をはじめ3曲を収録したドミニク・セナ監督によるショートフィルムが制作されたことなども挙げられる。

プロデューサーは「コントロール」に続いてジャム&ルイスなのだが、サウンドやミュージックビデオに見られるダンスなどもよりキッチリとしてきたような印象があり、モノクロームを基調としたアートワークも含め、クールでスタイリッシュなコンセプトが伝わりやすくなっていた。人種差別や性差別、貧困といった社会的なテーマを取り扱ったり、音楽的には当時のトレンドであったニュージャックスウィングが効果的に取り入れられているところなども特徴である。

「リズム・ネイション1814」は全米アルバムチャートで当たり前のように1位を記録するのだが、シングルカットされた「ミス・ユー・マッチ」「エスカペイド」「ブラック・キャット」「ラヴ・ウィル・ネヴァー・ドゥー」の4曲が全米シングルチャートで1位、「リズム・ネイション」「オールライト」「カム・バック・トゥ・ミー」を入れると実に7曲もがトップ5以内にランクインした。

この記録は兄であるマイケル・ジャクソン「スリラー」「バッド」などを上回っているのだが、1位を記録した楽曲の数だけだと「バッド」の方が1曲だけ多い。

それはそうとして、これだけのヒット曲を連発しただけあって、この頃のジャネット・ジャクソンはすっかりポップアイコンとしてもイメージが定着し、日本でも東京ドーム公演の最高観客動員を記録したり、後の安室奈美恵などに影響をあたえたりする。

「ミス・ユー・マッチ」が全米シングルチャートで1位を記録したことによって、マドンナのアルバム「ライク・ア・プレイヤー」から3曲目のシングルとしてカットされた「チェリッシュ」は最高2位に終わっているのだが、他にはザ・キュアー「ラヴソング」とティアーズ・フォー・フィアーズ「シーズ・オブ・ラヴ」が同じ理由で最高2位となっている。1990年の全米年間シングルチャートではフィル・コリンズ「アナザー・デイ・イン・パラダイス」に次ぐ2位であった。

個人的にはコンビニエンスストアの深夜のアルバイトをしていた頃によく流れていたので、イントロを聴いただけで当時の気分が甦ってくるのと、TBSテレビ系「イカ天」こと「三宅裕司のいかすバンド天国」の後に放送されていたトレンドウォッチャーの木村和久と蓮舫が司会を務める「IKE IKE CLUB」のラッキィ池田のコーナーでジャネット・ジャクソンと当時は有名だった歯ブラシ、バネットライオンをかけ合わせた振り付けをやっていたことなどが思い出される。