ロビンのベストソング10+1選(The 10+1 essential Robyn songs)
スウェーデン出身のポップミュージックアーティスト、ロビンは音楽批評メディアなどから今世紀で最も重要なアーティストの1人と評されていることも多いのだが、その理由の1つとしては、今日のポップシーンを席巻するオルタナティブなポップミュージックのパイオニア的存在として目されていることが大きいと思える。
また、日本語に訳すなら「切ないアゲ曲」ということになるのだろうか、サッドバンガーなるタイプの楽曲が、今日のポップミュージックアーティストのアルバムには収録されていることが多いが、その最も象徴的なアーティストがロビンであり、楽曲が「Dancing On My Own」だということができる。
メインストリームのポップR&Bアーティストとして、ティーンエイジャーだった1990年代にキャリアをスタートさせ、後にインディペンデントなアーティストとしてシンセポップ的でオルタナティブなポップミュージックによってブレイクを果たし、後のポップミュージック界に大きな影響をあたえた。
欲望や執着、強迫観念といった人間にとって重要なテーマをポップでキャッチーなのだが、エッジも効いている音楽にのせて歌うロビンの音楽は多くのフォロワーを生み出しもしたが、いまだ唯一無二ということもでき、2026年3月にリリースされたアルバム「Sexistential」(!)においてもそれは顕著である。
結局のところ、性愛やそれにまつわる強迫観念のようなものこそが存在意義の核に近いのではないかという実感をわりと本気で得ていながらも、かなりの大人になってまでもそういった真実を告白するとしたならば、相当にヤバくてイタいヤツ扱いされはしないだろうかというようなマイルドな恐怖に脅かされているタイプの人々(ほとんど自己紹介になっているような気がしなくもないのだが)に勇気をあたえてくれる素晴らしい内容で、深く感動したのであった。これこそがポップミュージックの存在意義の1つであろう。
それはそうとして、ちょうど良いタイミングなので、ロビンの特に重要なのではないかと思える10曲をセレクトして、簡単な説明や取るに足らない個人的な感想も付け加えていきたい。
‘Show Me Love’ (1997)
ロビンは当初、メインストリームのポップR&Bアーティストとしてデビューしたのだが、その時のプロデューサーがマックス・マーティンである。ロビンはクリエイティブ的に限界を感じて、別の音楽性を模索していくのだが、マックス・マーティンがアメリカ版ロビン的な存在として目を向けて大ブレイクさせたのがブリトニー・スピアーズだともいわれている。そして、ブリトニー・スピアーズがティーンアイドル的な絶頂期を経てややオルタナティブ的な音楽性で高評価を得ることになるシングル「Piece of Me」にはロビンがバックボーカルで参加している。
それはそうとして、この「Show Me Love」なのだが、ポップR&Bシンガー時代のロビンの代表曲であり、スウェーデンではシングルチャートで最高14位だったが、アメリカでは全米シングルチャートで最高7位と「Do You Know (What It Takes)」に続いて2曲連続でトップ10入りを果たした。
ロビンの楽曲として考えると物足りなくもあるのだが、TLCなどにも影響を受けたと思われる90年代のポップR&Bチューンとしては普通にかなり良いのではないか、と感じたりはする。
‘Be Mine!’ (2005)
メジャーレーベルと契約しているポップシンガーとしてはいろいろと限界を感じていたロビンは移籍などを経るものの、結果的にインディペンとレーベルのKonichiwa Recordを立ち上げることになる。レーベル名は大抵の日本人が想像するように、日本語でHelloの意味などをあらわす「こんにちは」に由来する。
そして、この「Be Mine!」はそのレーベルからの最初のアルバム「Robyn」からのリードシングルである。音楽的にはロビンが心底やりたかったシンセポップ的なものになっている。タイトルは「私のものになって!」と直訳できるようなものだが、ティーンエイジャーだった頃に戻って、あの頃の人生は世間一般から見れば取るに足らないことの連続だったとしても何てドラマティックだっただろうか、特に失恋や報われない恋にまつわるエトセトラにおいては、というような感覚によってつくられた楽曲のようだ。
失恋や現実的にはそこにすら至る以前にすでに終わっている悲しい気持ちは、時に日常生活を平気で送ることを困難にさせたりもするのだが、そういった感情に寄り添うようなエモーショナルな感じが、効果的に使用された弦楽器のサウンドの妙味などとも相まって、とても優しく感じられたりもする。
‘With Every Heartbeat’ by Kleerup and Robyn (2007)
スウェーデンの音楽プロデューサー、Kleerupの楽曲で、ロビンはフィーチャリングアーティストという扱いだったのだが、スウェーデンからの輸入盤がイギリスのクラブで流されるようになった後にロビンのシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートでは初の1位に輝いた。
メインストリームでの大ヒット曲にもかかわらず、この曲にキャッチーなコーラスはなく、メロディーはひじょうに循環的である。もう終わらせる以外に結末が描けないようなタイプの関係について歌われた楽曲で、決意はおそらく固いのだが、心臓が鼓動するたびに痛むことも事実である。
エレクトロニックなビートとストリングスのサウンド、そしてロビンのボーカルは悲しくて切実なのだが、ポップソングとしての強度が絶望感ではなく未来に存在しているかもしれない一縷の望みを感じさせているような気もする。
‘The Girl and the Robot’ by Röyksopp featuring Robyn (2009)
ノルウェーのエレクトロニックデュオ、Röyksoppのアルバム「Junior」収録曲に、ロビンがボーカリストとして参加したもので、80年代エレポップ的なサウンドとメロディーがロビンのボーカルにマッチしすぎている。
ロボットに恋する少女の悲しみがテーマであり、ロビンのオリジナル楽曲に比べると設定がかなりSFチックではあるのだが、これはこれでまたとても良いものだ、と感じることができる。
‘Dancing On My Own’ (2010)
ロビンの最も有名で評価が高い楽曲であるのみならず、ポップミュージック史における最重要曲の1つとしても評価されがちな、切ないアゲ曲ことサッドバンガーの代表曲である。
悲しい気持ちをかかえながらアップテンポな曲で踊る、という経験は古今東西、わりと多くの人々が共有しているのではないかと想像するのだが、そういった状況にこれでもかというぐらいに最も適した楽曲だといえよう。
2010年のロビンは「Body Talk」と題したアルバムをなんと3タイトルもリリースするという充実ぶりだったのだが、そのリードシングルとして発表されたのがこの「Dancing On My Own」であった。
この曲はロビンの母国であるスウェーデンのシングルチャートで初の1位に輝いたり、イギリスでも全英シングルチャートでトップ10入りを果たすなど、実際にわりとヒットしていたので、隠れた名曲という感じでもないわけなのだが、それにしても、リリースされてからどんどん評価が高まっていった楽曲の1つだということはできるだろう。
閉店間際の混雑したクラブで探していた元カレが他の女性と踊ったり抱き合ったりしているのを見て、一人で踊るという内容の楽曲は大いに共感を呼んでいるわけだが、これには当時、実際に婚約にまで至った激しい恋が破綻していたロビン自身の心境も反映されていたともいわれる。
‘Hang with Me’ (2010)
「Dancing On My Own」があまりにも有名すぎるのだが、「Body Talk」シリーズは本当に充実しまくっていて、とても良い曲がたくさん収録されている。
この「Hang with Me」は「Body Talk」のPart.1にアコースティックバージョンが収録され、Part.2にポップバージョンのようなものが収録された。
エレポップの影響を受け、そのエッセンスをモダンに拡張したかのような素晴らしいポップソングなのだが、恋に落ちることのリスクを踏まえながら、それでしか得ることのできない信頼感、そしておそらくは自己肯定感にまでも言及しているように思われる点において、とても重要だと評さずにはいられない。
‘Indestructible’ (2010)
これもまた「Body Talk」シリーズの収録曲である。わりと後の方になってから発表されたのだが、これはロビン自身がこの曲に自身があったのであえてという選択だったようである。
タイトルを直訳すると「不滅」とかそんな感じなのだが、歌詞の内容は新しい恋のはじまりにまつわるエトセトラである。しかもそれなりのそれほど幸福ではない経験を経た上での、大人のそれである。
そうなってくるとわりと恋愛や性愛のようなものからは主体的だったり客体的な理由によって下りることを選択する人たちが少なくはないのだが、それでもそこに執着し続けるというか、おそらくそれ以上のクライマックスは他にどこにもないのだろうという確信がともなっているところに、リスナーとしては共感できたりできなかったりはするのかもしれない。
おそらくそれを抜きにしても優れたポップソングではあると思うのだが、これはハードコアであり私は不滅です、というような感情を恋をする度にいだいているような状況を客観的には何だかな、と思いながらもそれほど悪くはないのではないか、というかむしろそれでこそ最高の人生だろ、というような気分で個人的にはいます、はい。
それでこの曲のミュージックビデオも性愛という人生において最も重要なテーマをヴィヴィッド扱っているがゆえに、年齢制限が設けられているようだ。
‘Call Your Girlfriend’(2010)
これもまた「Body Talk」シリーズからで、厳選した10曲中(正確には11曲だが)4曲はあまりにも多すぎではないかとか、そもそも本当に厳選したのとかいろいろ想像されそうではあるのだが、厳選したうえでこれら4曲をいずれも入れざるをえなかったというのが正直なところである。
特にこの「Call Your Girlfriend」はヒットの規模でいうと全英シングルチャートで最高55位とそれほどでもないのだが、内容がとても良い。いわゆる世間一般的にいうところの浮気であったり三角関係のようなものをテーマにしているのだが、新しく出会ってしまった相手の方が盛り上がってしまったとするならば、そうではない方の人に別れを告げるのは至極当然、と思いながらも世間一般的な規範を意識するならば、こういう考えはあまり良くないのではないか、と気にしたり、それでも盛り上がってしまったものは仕方がないし、そんな人生において最も重要な瞬間なのではないかと断言できるようなものを、たかが世間一般的な規範ごときのために無にする方がよっぽど罪深いのでないか、というような考えはおそらく受けないのだろう。
しかし、そんな感情を極上のポップソングのフォーマットにおいて全肯定してくれるのがこの楽曲であり、これをベストソングリストに入れない理由がまったく無いわけである。
そして、これは冷酷さではなく気遣いであり優しさである、というような考え方もおそらく世間一般的には受けないのだろうという自覚はあるのだ。
‘Missing U’ (2018)
ロビンの「Body Talk」シリーズ以来実に約8年ぶりとなるアルバム「Honey」からリードシングルとしてリリースされたのがこの「Missing U」であり、タイトルは「あなたがいなくて寂しい」というような意味になる。つまり、喪失感がテーマであり、「空虚な空間」というフレーズがそれを象徴している。
コラボレーションEPをリリースしたり他のアーティストの作品に参加したりという活動は行っていたものの、ロビン自身名義の作品としてはわりと、というかかなり久しぶりになり、その間には大切な人々との別れなども経験し、それが楽曲のテーマにもつながったようである。そして、それはロビン自身とファンやリスナーとの関係にも当てはめられている。
目まぐるしく移り変わるポップシーンにおいてはあまりにも長すぎるブランクのようにも感じられたのだが、ポップミュージックとしての強度はまったく衰えていなく、卓越したポップ感覚はそのままに、より人間味のようなものが増しているようにも感じられた。
‘Dopamine’ (2025)
アルバム「Sexistential」のリードシングルとなったこの楽曲、同時代的なポップソングとしてもちろん優れているのだが、そのテーマにもまた唸らされた。タイトルの「Dopamine」とは脳内の神経伝達物質のことで、快感ややる気といったものに深くかかわっている。
恋におちた時の感覚を、この曲でロビンは単なるドーパミンの作用にすぎないことは分かっていると告白しながらも、それはとてもリアルに感じられ、とても良いものだから降参する以外にないし、しかもそれはとてもクールだ、というように歌っている。
1990年代半ばのティーンエイジャーだった頃にデビューしたロビンは現在ではかなりの大人なのだが、それでもこういった真実について、極上のポップミュージックにのせて歌っているところがやはり素晴らしいわけであり、ある一定の人々に勇気や救いをあたえているような気がしてならない。
‘Talk to Me’ (2026)
アルバム「Sexitential」からのリードシングルとして2026年1月に発表された楽曲だが、一部のファンやリスナーの間ではすでにヘビーローテーションの末に定番曲化しているのではないかと考えられる、とても良いシンセポップソングである。
アルバムタイトルは性愛と実存とを合体させた造語なのではないかと想像できるのだが、もちろん性愛こそが実存であるというようなリアリティをヴィヴィッドに感じているものの、世間一般的な常識を鑑みるにそれはあまり良くないことなのではないか、などとうっすら感じている人たちにとっては福音とさえいえる。
ところがこの曲は肉体的ではなく、会話についてひたすら歌っている。いまは懐かしき新型コロナウイルスが蔓延していた時代、身体的接触は困難とされていたわけだが、それでも恋愛や性愛に確実に存在した。そんな時代につくられたというこの楽曲は通話機能による性愛と健全なコミュニケーションをテーマにしていて、「私はおしゃべりな人が好きで、それが私を興奮させる」などと歌われる。
それと同時に、想像力がいかに大切であり可能性に満ちているか、ということをも表現しているようにも思える。